歯科コラムcolumn
【インプラント治療ガイド④】埋入手術の方法と麻酔・全身管理|1回法・2回法と痛み2026/06/19
インプラント治療においてもっとも不安を感じる方が多いのが「手術」です。「どんな流れで進むのか」「痛みはどのくらいか」「麻酔はどうなるのか」といった疑問は自然なことです。本記事では、インプラント埋入手術の基本的な流れ・術式の違い(1回法と2回法)・荷重時期の考え方(即時荷重・早期荷重・待時荷重)・抜歯即時埋入の適応と注意点・麻酔と全身管理・術後の経過・偶発症と合併症まで、歯科医師監修のもと正確かつ誠実にお伝えします。治療を安心して選択していただけるよう、メリットだけでなくリスクも含めて丁寧に解説します。なお、インプラント治療は自由診療(保険適用外)です。
埋入手術の基本的な流れ
インプラント埋入手術は、適切な検査・診断・治療計画(第3回:治療の流れと検査・診断参照)を経て初めて実施されます。手術は一般に局所麻酔下で行われ、外来・日帰りが基本ですが、全身状態や術式によっては配慮が必要な場合もあります。ここでは標準的な切開を伴う手術の流れと、切開を伴わない「フラップレス術式」の概要を説明します。
切開・剥離(フラップ形成)
局所麻酔が効いた後、歯茎(歯肉)をメスで切開し、骨膜ごと剥離して顎骨を露出させます。この工程を「フラップ形成」と呼びます。術野を直接確認しながら操作できるため、骨量・骨質・解剖学的構造(神経・血管・上顎洞底など)を正確に把握したうえで次の工程に進むことができます。切開線の位置や形状は欠損部位の状況や骨造成の要否によって異なります。
埋入窩(まいにゅうか)形成
露出した顎骨に対して、専用のドリルビット(骨切削器具)を段階的に使用し、インプラント体を埋め込むための穴(埋入窩)を形成します。ドリルは直径が小さいものから大きいものへと順番に使用し、最終的にインプラント体の径に合わせた形状に整えます。このとき、骨への熱ダメージを防ぐために生理食塩水などで十分な冷却・洗浄を行いながら操作することが重要です。骨への過度な熱侵襲はオッセオインテグレーション(インプラントと骨が直接結合する現象)の妨げになるため、術者の丁寧な操作と適切な冷却が求められます。
インプラント体の埋入
埋入窩が完成したら、チタン製のインプラント体(フィクスチャー)を慎重に埋入します。インプラント体の表面には骨との結合を促進するための特殊な処理(サンドブラスト処理・酸エッチング処理など)が施されており、良好な初期固定(primary stability)が得られることが重要です。初期固定が不十分だと、オッセオインテグレーションの獲得が妨げられる可能性があります。埋入のトルク値(挿入時の締め付け力)を計測し、記録することが安全管理上の標準的な実践です。
縫合・創閉鎖
インプラント体の埋入後、手術術式に応じてカバースクリュー(埋入部を封鎖するキャップ)またはヒーリングアバットメント(歯肉の形態を整えるパーツ)を装着し、歯肉を縫合して創を閉鎖します。縫合には非吸収性の縫合糸を使うことが多く、術後1〜2週間程度で抜糸を行うのが一般的です。
フラップレス術式(無切開アプローチ)
条件が整っている場合には、歯肉を大きく切開しないフラップレス術式(無切開アプローチ)が選択されることがあります。パンチング器具で歯肉に小さな穴を開け、骨を露出させずにインプラントを埋入する方法です。侵襲が小さく、出血や腫れが少なくなることが期待されますが、術野が直視できないため、骨量が十分にあり、解剖学的リスクが低い症例に限られます。サージカルガイド(術中の位置決めを補助する装置)を用いることで安全性を高めることが可能です(詳しくは第7回:デジタル技術の応用で解説します)。
1回法と2回法の違い:術式の選択基準
インプラント埋入手術には大きく分けて「1回法」と「2回法」の2種類の術式があります。どちらを選択するかは、患者さまの骨量・骨質・欠損状況・全身状態・治療計画などに基づいて歯科医師が判断します。
2回法(2ステージ法):骨との結合を待ってから二次手術
2回法は、第1回の手術でインプラント体を顎骨に埋入し、カバースクリューで封鎖して歯肉を縫合・閉鎖します。そのまま骨との結合(オッセオインテグレーション)が進む期間(一般に下顎で約3〜4カ月、上顎で約4〜6カ月が目安とされますが個人差があります)を待ったのち、第2回の手術(二次手術)でカバースクリューを除去してヒーリングアバットメントを装着し、歯肉を整えます。その後、上部構造(被せ物)の製作に進みます。
2回法は、インプラント体が骨内に完全に埋没した状態でオッセオインテグレーションが進むため、外部からの負荷や感染のリスクを最小化できるとされています。骨量が不足している場合やGBR(骨誘導再生法)などの骨造成処置を同時に行う場合(詳しくは第5回:骨造成で解説します)、初期固定が十分に得にくい症例などでは、2回法が適していることが多いとされています。
1回法(1ステージ法):二次手術を省略できる
1回法は、第1回の埋入手術の際にカバースクリューではなくヒーリングアバットメントを装着し、歯肉を貫通させた状態でオッセオインテグレーションを待つ術式です。二次手術が不要なため、患者さまの外科的処置の回数が減り、通院負担が軽減される点が特徴です。骨量と骨質が良好で初期固定が十分に得られる症例、欠損が単純で解剖学的なリスクが低い症例などが適応となります。
2つの術式の主な比較
| 項目 | 2回法(2ステージ法) | 1回法(1ステージ法) |
|---|---|---|
| 埋入時の装着部品 | カバースクリュー | ヒーリングアバットメント |
| 二次手術の有無 | あり(カバースクリュー除去・ヒーリングAbt装着) | なし |
| オッセオインテグレーション中の封鎖 | 歯肉下に完全封鎖 | 歯肉貫通(経粘膜型) |
| 主な適応の考え方 | 骨造成併用例・初期固定が不安な症例・リスクが高い症例など | 骨量・骨質良好・シンプルな欠損・初期固定良好な症例など |
| 患者負担(手術回数) | 手術2回(埋入+二次) | 手術1回 |
どちらの術式が適切かは患者さまの状態・術者の判断によって異なり、どちらが「優れている」と一概に言えるものではありません。担当の歯科医師と治療計画の段階でしっかり確認することをお勧めします。
荷重時期の分類と抜歯即時埋入
「荷重(かじゅう)」とはインプラントに咬合力(噛む力)をかけることを意味します。埋入から上部構造(被せ物)を装着して実際に噛めるようになるまでの期間をどう設定するかが「荷重時期」の考え方であり、「即時荷重」「早期荷重」「待時荷重」の3つに分類されます。
待時荷重(通常荷重):もっとも確立された方法
待時荷重とは、埋入後にオッセオインテグレーションが十分に完成するまで(一般に下顎で3〜4カ月、上顎で4〜6カ月程度が目安)咬合力をかけずに待ち、骨との結合が確認されてから上部構造を装着する方法です。長年の臨床実績があり、安全性が高い方法として広く行われています。インプラントが骨と確実に結合してから噛む力を負担させるため、失敗のリスクを低く保てるとされています。
早期荷重:骨結合の途中段階で荷重を開始
早期荷重は、埋入後おおむね1週間から2カ月程度の時期に上部構造を装着し、段階的に咬合力をかけていく方法です。待時荷重より治療期間を短縮できる可能性がありますが、初期固定が良好であることや骨質・骨量が適切なことなど、適応条件の選択が重要です。
即時荷重:埋入当日または48時間以内に荷重を開始
即時荷重とは、インプラント体の埋入手術と同日、あるいは術後48時間以内に仮歯または本歯を装着して咬合力をかける方法です。患者さまにとっては「手術当日から歯がある」状態になれるという点で、治療期間の大幅な短縮や審美的・機能的な満足感が得やすい利点があります。
ただし、即時荷重にはいくつかの重要な条件と注意点があります。初期固定が非常に高い値であること・骨量と骨質が十分であること・噛み合わせ(咬合)の設計が適切であること・患者さまが術後指示を厳守できることなどが求められます。これらの条件が整わない場合に無理に即時荷重を行うと、オッセオインテグレーションの獲得に失敗するリスクが高まります。適応の判断は歯科医師が慎重に行う必要があります。
抜歯即時埋入:抜歯と同日に埋入する術式
抜歯即時埋入とは、歯を抜くと同時に(あるいは抜歯後ごく短期間内に)インプラントを埋入する術式です。抜歯と埋入を別々に行う「抜歯後待機埋入」と比べて、治療全体の期間を短縮できること・手術回数を減らせること・抜歯後の骨吸収をある程度抑制できる可能性があることなどが挙げられます。
適応にはいくつかの重要な条件があります。抜歯窩(ばっしか:歯を抜いた後の穴)に急性感染がないこと・抜歯後の骨壁が十分に残存していること・インプラント体を安定して埋入できるだけの骨量(特に歯根の先方の骨)が確保できること・全身状態に問題がないことなどが前提となります。一方で、歯肉の退縮(歯茎が下がる)リスクや、感染・初期固定不良のリスクが通常の待機埋入より高くなる場合があること・抜歯窩とインプラント体の間にできる隙間(ジャンプギャップ)への骨補填材の使用要否の判断など、慎重な計画が求められます。症例の選択と術者の経験が治療成績に大きく影響するため、全ての抜歯症例に対して即時埋入が適するわけではありません。
麻酔と全身管理:安全・快適に手術を受けるために
インプラント手術は外科処置である以上、適切な麻酔と術中・術後の全身管理が欠かせません。患者さまの全身状態・手術内容・不安の程度などを総合的に判断して麻酔法と管理体制を決定します。
局所麻酔:すべての手術の基本
インプラント手術の麻酔は、原則として局所麻酔(注射による浸潤麻酔や伝達麻酔)が基本です。歯科治療における一般的な局所麻酔と同様に、注射部位の歯肉にあらかじめ表面麻酔を塗布してから麻酔薬を注入することで、手術中の痛みを遮断します。麻酔が十分に効いた状態では、切開・ドリリング・埋入中の痛みはほとんど感じないことがほとんどです。ただし、圧力感や振動感は感じる場合があります。局所麻酔薬にはアドレナリン(エピネフリン)が配合されたものが多く使用されますが、心疾患などの全身疾患をお持ちの方については担当医師・内科医と連携して薬剤の選択や用量を検討することが重要です。
静脈内鎮静法:不安が強い方・嘔吐反射が強い方などに
局所麻酔に加えて「静脈内鎮静法(じょうみゃくないちんせいほう)」を選択できる歯科医院もあります。静脈内鎮静法とは、腕の静脈から鎮静薬を投与することで、うとうとした状態(意識はあるが眠気や安心感が生じる状態)で手術を受けられる麻酔補助法です。完全に意識を失う全身麻酔とは異なり、呼びかけへの反応は保たれますが、治療中の記憶はほとんど残らないことが多いとされます。
静脈内鎮静法が特に考慮される場面としては、歯科治療への強い不安・恐怖心がある方・嘔吐反射(えずき)が非常に強い方・複数のインプラントを一度に埋入するなど手術時間が長くなる場合・全身状態から局所麻酔のみでは管理が難しいと判断された場合などが挙げられます。静脈内鎮静法を実施する際には、術中の血圧・脈拍・酸素飽和度などを継続的にモニタリングする機器と、緊急時に対応できる体制の整備が必要です。なお、実施可能かどうかは医院の設備・体制・担当医の資格によって異なります。
術中モニタリングと周術期管理
手術中は患者さまの全身状態を随時確認することが安全管理の基本です。血圧・脈拍・経皮的酸素飽和度(SpO2)などのバイタルサインをモニターで継続的に計測し、異常の早期発見に努めます。インプラント手術は外来で行われることがほとんどですが、術前・術中・術後を通じた「周術期管理(しゅうじゅつきかんり)」の観点から、服薬状況の確認(抗凝固薬・抗血小板薬・骨粗鬆症治療薬など)・既往歴の把握・緊急時対応の準備が不可欠です。
有病者・高齢者への配慮
糖尿病・高血圧・心疾患・血液疾患・骨粗鬆症などの全身疾患をお持ちの方や、複数の薬を服用している高齢の患者さまには特別な配慮が必要です。コントロール不良の糖尿病は創傷治癒を遅延させ、感染リスクを高めることが知られています。骨粗鬆症治療に使用されるビスフォスフォネート製剤やデノスマブは、顎骨壊死(MRONJ:薬剤関連顎骨壊死)のリスクと関連するとされており、手術前に内科担当医と連携して休薬の要否を確認することが重要です(内服の骨粗鬆症薬の場合、発症頻度は低いとされますが、個別のリスク評価が必要です)。抗凝固薬・抗血小板薬の服用者では出血管理に関して内科医・担当医との十分な連携が求められます。高齢者ではさらに体力・回復力・全身状態の個人差が大きいため、治療適応の判断と術前評価を丁寧に行ったうえで、医科歯科連携のもとで治療を進めることが推奨されています。公益社団法人日本口腔インプラント学会の『口腔インプラント治療指針2024』においても、高齢者のインプラント治療に関するエビデンスの集積と個別対応の重要性が示されています。
術後の痛み・腫れ・経過について
手術後の経過は患者さまの体質・手術の難易度・術式・全身状態などによって個人差があります。「どれくらい痛いのか」「どれくらい腫れるのか」は多くの方が気になる点ですが、過度に不安になる必要はありません。一方で、不快感がまったくない、という保証もできません。実情を正確にお伝えします。
術後の痛みと鎮痛薬の活用
局所麻酔が切れる術後数時間以降に、創部(切開部分)のうずくような痛みや不快感が現れることがあります。多くの場合、処方または指示された鎮痛薬(消炎鎮痛薬など)を適切に使用することで、日常生活に支障のない範囲にコントロールできることが一般的です。ただし、痛みの強さや持続期間は個人差があります。術後数日が経過するにつれて症状は落ち着いていく方がほとんどですが、痛みが強くなったり長引いたりする場合は担当医に相談することが重要です。「まったく痛くない」「痛みゼロ」といった表現は実情に沿わない可能性があるため、当院ではそのような表現は使用しません。
術後の腫れと経過
術後24〜72時間にかけて、術部周囲の顔面(頬・顎周辺)が腫れることがあります。腫れの程度は手術の範囲・侵襲の大きさ・個人差によって異なります。切開の範囲が大きい場合や骨造成を同時に行った場合には、腫れが顕著に出やすい傾向があります。術後の腫れのピークはおおむね術後1〜3日目で、多くの場合1週間〜10日程度で大きく改善します。術後は患部を冷やすことが有効なことが多いですが、強く冷やしすぎると血流が悪くなる場合もあるため、担当医の指示に従ってください。
抗菌薬の使用と術後の注意事項
術後感染を予防するために抗菌薬(抗生物質)が処方されることが一般的です。処方された薬は医師の指示通りに最後まで服用してください。また、術後は以下のような点に注意が必要です。
- 術後24〜48時間は強いうがい・激しい口の中の洗浄を避ける(血餅の形成を妨げないため)
- 喫煙は傷の治癒を妨げ、オッセオインテグレーションの失敗リスクを高めるとされているため、術前後の禁煙が強く推奨されます
- 激しい運動・飲酒・入浴(長湯)は術後しばらく控える(血行促進による出血リスク)
- 術部を舌や指で触らない
- 処方薬を指示通りに服用する
- 異常(激しい出血・強い痛み・発熱・麻痺感など)があればすぐに受診する
仕事・日常生活への復帰
デスクワークなど体への負担が少ない仕事であれば、翌日から復帰できる方も多くいます。一方で、肉体労働・重い荷物の運搬・激しい運動を伴う仕事・接客業で長時間話し続けるような場合は、術後数日は無理をしないことが望ましいです。仕事の復帰時期については、担当医と事前に相談しておくことをお勧めします。
サージカルガイドによる精密・低侵襲手術
近年、CT(コーンビームCT:CBCT)のデータをもとに作製された「サージカルガイド(外科用ステント)」を使用して、インプラントの埋入位置・角度・深さを術前に精密に設計し、その通りに手術を行う「ガイデッドサージェリー(コンピュータ支援手術)」が広く普及してきています。
サージカルガイドを使用することで、術前の治療計画通りの埋入が実現しやすくなり、神経・血管・上顎洞などの重要な解剖学的構造物への不慮の接触リスクを低減することが期待されます。また、精度の高い埋入位置の実現は、上部構造(被せ物)の精度や咬合の安定にも寄与します。フラップレス術式との組み合わせにより、さらに低侵襲な手術が可能になるケースもあります。
ガイデッドサージェリーの詳細な仕組み・精度・デジタルワークフローとの連携については、第7回:デジタル技術の応用(サージカルガイド・口腔内スキャナー)で詳しく解説していますので、あわせてご参照ください。
起こりうる偶発症・合併症と予防
インプラント手術は安全性の高い外科処置ですが、あらゆる外科手術と同様に偶発症・合併症が起こる可能性があります。術前の精密な診査・診断と計画立案、術中の丁寧な操作、術後の適切な管理によってリスクを低減することができますが、ゼロにはなりません。患者さまに正確にご理解いただいたうえで手術に臨んでいただくことが重要です(インフォームドコンセント)。以下に主な偶発症・合併症と予防の考え方を説明します。
下歯槽神経・オトガイ神経の損傷
下顎(したあご)へのインプラント埋入では、下歯槽神経(かしそうしんけい)とオトガイ神経(顎先から唇にかけての感覚を司る神経)が重要な解剖学的構造です。これらの神経に近い部位にインプラントを埋入する際に、誤って神経を圧迫・損傷すると、下唇・顎・舌の一部にしびれや感覚異常(知覚鈍麻・知覚過敏・疼痛)が生じる可能性があります。多くの場合は一過性ですが、まれに長期化・永続化することもあります。
予防のためには、術前のCBCT(歯科用コーンビームCT)による三次元的な神経管の把握と、安全距離を考慮した埋入計画の立案が不可欠です。サージカルガイドの使用も予防に貢献します。術後に感覚異常が生じた場合は、速やかに担当医に報告することが大切です。
上顎洞関連の偶発症
上顎(うえのあご)の奥歯(臼歯部)にインプラントを埋入する場合、上顎洞(じょうがくどう:鼻の脇にある空洞)の底部が近接していることがあります。ドリリングや埋入時に上顎洞底を損傷・穿孔すると、上顎洞炎(いわゆる蓄膿症)を引き起こす可能性があります。また、まれにインプラント体が上顎洞内に迷入(落下)することがあり、この場合は外科的な摘出が必要になります。
予防には、術前のCBCTによる残存骨量と上顎洞底の形態の精密な評価が必要です。骨量が不足している場合は、ソケットリフトやサイナスリフト(上顎洞底挙上術)などの骨造成処置を先行・同時に行うことを検討します(第5回:骨造成参照)。
出血・血腫
手術中・術後に予期以上の出血が生じることがあります。通常は術中の圧迫止血で対応できますが、抗凝固薬・抗血小板薬を服用中の患者さまでは止血が難しくなることがあります。術後に口腔底(舌の下の組織)に大きな血腫が形成されると、気道閉塞の危険もあるため、特に注意が必要な部位です。術前の服薬確認と、必要に応じた内科医との連携が予防の基本です。
感染・創治癒不全
手術部位の感染は、術後の口腔衛生不良・喫煙・全身免疫の低下(コントロール不良の糖尿病など)・不適切な術後管理などによって起こりやすくなります。感染が重症化すると骨髄炎(骨の感染)になる可能性もあります。術前からの口腔衛生指導・抗菌薬の予防投与・術後の適切な管理が重要な予防策です。
初期固定不良・オッセオインテグレーション不全
インプラント体の埋入直後に十分な初期固定が得られない場合、あるいは埋入後にオッセオインテグレーションが正常に進まない(骨とうまく結合しない)場合があります。原因としては、骨質の問題・埋入窩形成時の骨への過度な熱侵襲・感染・過度な早期荷重などが挙げられます。オッセオインテグレーション不全が確認された場合は、インプラント体を除去して治癒を待ち、状況に応じて再埋入を検討することになります。
インプラント体の迷入・落下
まれな偶発症ですが、インプラント体や関連部品が気道・食道・上顎洞・下顎管内などに迷入(誤った方向に入り込む・落下する)することがあります。気道への迷入は窒息の危険があります。このような偶発症を防ぐために、手術時には器具・部品の管理を徹底し、必要に応じてラバーダム(防湿・誤飲防止シート)や専用の器具固定策を講じることが重要です。
周辺組織・隣接歯への損傷
埋入位置が適切でない場合、隣接する天然歯の歯根を損傷したり、骨隔壁を突き抜けてしまったりする可能性があります。術前の精密な計画と、サージカルガイドの活用・丁寧な操作が予防の柱となります。
よくある質問(FAQ)
Q1. 手術の時間はどれくらいかかりますか?
1本のシンプルなインプラント埋入手術であれば、局所麻酔の注射から縫合完了まで30分〜1時間程度が目安とされることが多いです。ただし、骨造成処置を同時に行う場合・複数本を同時埋入する場合・静脈内鎮静法を使用する場合・フラップレスではなく広範囲の切開が必要な場合などは、さらに長くなることがあります。実際の手術時間は術前の計画段階で担当医にご確認ください。
Q2. 日帰りで手術を受けられますか?
多くのインプラント手術は外来・日帰りで行われます。静脈内鎮静法を使用した場合は術後の回復に時間がかかること・ふらつきが残る可能性があることから、ご自分での運転は避け、付き添いの方と来院されることをお勧めします。全身疾患をお持ちで管理が必要な場合や、大規模な骨造成を伴う手術などでは、入院管理が必要と判断されることもあります。
Q3. 術後どのくらい腫れますか?腫れが引くまでの期間を教えてください。
腫れの程度は手術の侵襲の大きさや個人差によって異なります。一般的には術後1〜3日目頃がピークで、1〜2週間程度で目立った腫れが引いてくることが多いです。骨造成を同時に行った場合は腫れが大きくなる傾向があります。術後の顔面の腫れが気になる場合や、腫れが長引く場合は担当医に相談してください。大事な予定(結婚式・重要な仕事の会議など)の直前の手術はできれば避け、余裕を持ったスケジュールで治療計画を立てることをお勧めします。
Q4. 手術後いつから仕事・学校に復帰できますか?
デスクワークや軽作業であれば翌日から復帰できる方も少なくありません。ただし、体への負担が大きい肉体労働・スポーツ・大きな声を出す仕事などは、術後数日は控えることが望ましいです。仕事の内容と手術の規模を担当医に伝えたうえで、復帰時期の見通しを相談しておくことをお勧めします。
Q5. 抜糸はいつ行いますか?
一般に術後1〜2週間程度を目安に抜糸の予約を行います。創の治癒状態を確認しながら、担当医が適切な時期を判断します。吸収性(溶ける)縫合糸が使用される場合は抜糸が不要なこともありますが、使用する縫合糸の種類は術式・医院の方針によって異なります。抜糸の際に合わせて術後の状態確認・口腔衛生指導も行われます。
Q6. 1回法と2回法はどちらが良いですか?自分はどちらになりますか?
どちらが良いかは一概には言えず、骨量・骨質・欠損部位の状態・骨造成処置の要否・患者さまの全身状態などをもとに歯科医師が総合的に判断します。「どちらにしたいか」という患者さまのご希望も参考にされますが、安全性と治療成績の観点から適切な術式を担当医が提案することになります。治療計画の段階でしっかりと説明を受け、納得したうえで選択することが大切です。
まとめ:インプラント手術を正しく理解し、安心して治療へ
インプラント埋入手術は、「切開→埋入窩形成→インプラント体埋入→縫合」という基本的な流れのもと、患者さまの状態に合わせた術式・麻酔・荷重計画で進められます。1回法と2回法の違い・即時荷重と待時荷重の考え方・抜歯即時埋入の適応と注意点・静脈内鎮静法の活用・有病者・高齢者への配慮など、手術には多くの判断要素が関わっています。
また、下歯槽神経損傷・上顎洞関連の偶発症・感染・オッセオインテグレーション不全などのリスクは、精密な術前計画・適切な術中操作・術後管理によって低減できますが、完全にゼロにはなりません。これらのリスクと利点について担当医から十分な説明(インフォームドコンセント)を受け、疑問・不安を解消したうえで治療に臨むことが大切です。
インプラント治療は自由診療(保険適用外)であり、費用・術式・対応可能な麻酔法は医院によって異なります。疑問な点は遠慮なく担当医に確認してください。
- 手術の基本的な流れ:切開→埋入窩形成→インプラント体埋入→縫合(フラップレスも条件付きで選択可)
- 1回法は二次手術が不要、2回法は骨との結合を封鎖状態で待つ。適応は患者さまの状態による
- 荷重時期は待時・早期・即時の3分類。即時荷重・抜歯即時埋入は適応条件の選択が重要
- 麻酔は局所麻酔が基本。静脈内鎮静法は適応のある患者さまに選択肢
- 術後の痛み・腫れには個人差があり、鎮痛薬・抗菌薬・術後指示の遵守が重要
- 神経損傷・上顎洞関連・感染・オッセオインテグレーション不全などのリスクを正しく理解する
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※本記事は一般的な情報提供を目的とした解説であり、特定の治療効果を保証するものではありません。診断・治療方針は個々の口腔内・全身状態により異なります。インプラント治療は自由診療(保険適用外)で、外科処置にともなうリスク・副作用が生じる可能性があります。詳しくは歯科医師にご相談ください。参考:公益社団法人日本口腔インプラント学会『口腔インプラント治療指針2024』。
