歯科コラムcolumn
顎関節症でも矯正できる?あごの音・痛みと矯正治療の関係を調布の歯科医師が解説2026/10/08
顎関節症があっても、多くの場合、症状を落ち着かせてから歯列矯正を始めることは可能です。一方で、「矯正をすれば顎関節症が治る」と断定することはできません。顎関節症は、かみ合わせだけでなく、歯ぎしり・食いしばり、日中の歯列接触癖(TCH)、ストレス、頬づえなど多くの要因が重なって起こるためです。
「口を開けるとあごがカクカク鳴る」「矯正の相談に行きたいが、あごが痛いままで始めていいのか不安」「矯正中にあごが痛くなってきた」——調布の当院でも、矯正のご相談の際にあごの症状について質問をいただくことが少なくありません。あごの音や痛みと矯正治療の関係は誤解が多いテーマであり、正しい順序を知っておくことが安心につながります。
この記事では、顎関節症の3大症状と原因、顎関節症でも矯正できるかどうかの判断の考え方、矯正で「治る」と言い切れない理由、学会のガイドラインで推奨される初期治療、矯正中に症状が出たときの対応まで、順を追って解説します。
この記事の要点
- 顎関節症の3大症状は「あごの痛み」「口が開けにくい開口障害」「カクカク・ジャリジャリという関節音」で、音だけなら治療は不要とされています。
- 顎関節症の原因はかみ合わせだけではなく、TCH(歯列接触癖)や歯ぎしり・ストレスなど多因子が重なって起こります。
- 症状が強い時期は矯正を急がず、まずセルフケアやスプリントなどの保存的治療で症状を安定させるのが基本的な順序です。
- 矯正でかみ合わせが整うことで負担の軽減が期待できる場合はありますが、「矯正すれば必ず治る」とは言えません。
- 矯正中にあごの痛みや音が出たときは、自己判断で中断せず担当の歯科医師に早めに相談することが大切です。
目次
顎関節症とは?3大症状とセルフチェック
顎関節症とは、あごの関節(顎関節)やあごを動かす筋肉(咀嚼筋)の痛み、口が開けにくくなる開口障害、あごを動かしたときのカクカク・ジャリジャリという関節音を主な症状とする病気の総称です。この「痛み・開口障害・関節音」が3大症状と呼ばれ、いずれか1つ以上があり、他の病気が除外されたときに顎関節症と診断されます。
顎関節症はまれな病気ではありません。公益社団法人日本歯科医師会の情報サイト「テーマパーク8020」の顎関節症の解説ページでは、一生の間に2人に1人が経験するといわれるほど身近な症状であり、症状を自覚しても実際に治療が必要になるのはその一部にとどまること、そして「音がするだけ」であれば特に治療は必要ないとされていることが紹介されています。つまり、あごの音がする=すぐに治療や矯正が必要、というわけではないのです。
まずは、ご自身の状態を簡単に確認してみましょう。次の表は、受診の目安を考えるためのセルフチェックです。
| チェック項目 | 目安 |
|---|---|
| 口を大きく開けたとき、縦にした指が3本(約4cm)入らない | 開口障害の可能性。歯科への相談を検討。 |
| 口の開け閉めや食事のときに、あごや耳の前あたりが痛む | 痛みが続く・強くなる場合は受診の目安。 |
| 開け閉めでカクカク音がするが、痛みや開けにくさはない | 音だけなら経過観察でよいとされる。変化があれば相談。 |
| 朝起きたとき、あごや頬がだるい・こわばる | 夜間の歯ぎしり・食いしばりの可能性。生活習慣の見直しと相談を。 |
| 硬いものを噛むとあごが疲れる・痛む | 咀嚼筋への負担のサイン。無理に噛み続けない。 |
痛みや開口障害があって食事や会話に支障が出ている場合は、放置せずに歯科や歯科口腔外科で相談することをおすすめします。症状の程度や経過は人によって大きく異なるため、診察による確認が出発点になります。
顎関節症の原因はかみ合わせだけ?TCHという習慣に注意
顎関節症の原因は、かみ合わせだけではありません。現在では、複数の要因が重なり、あごの関節や筋肉が耐えられる限界を超えたときに発症すると考えられています(多因子病因説)。かつては「かみ合わせの悪さが主な原因」と考えられた時代もありましたが、かみ合わせは数ある要因の一つと位置づけられるようになっています。
要因としては、夜間の歯ぎしり・食いしばり(ブラキシズム)、日中の歯列接触癖(TCH)、精神的なストレス、頬づえ・うつぶせ寝などの姿勢の癖、硬い食品の食べ過ぎ、片側だけで噛む癖、楽器の演奏や長時間のデスクワークなど、生活のなかの小さな負担の積み重ねが挙げられます。歯並びやかみ合わせの乱れ(不正咬合)も負担を増やす一因になり得ます。ご自身の歯並びがどのタイプに当てはまるか気になる方は、不正咬合の種類を解説した記事も参考にしてください。
TCH(歯列接触癖)とは?セルフチェック
TCH(Tooth Contacting Habit:歯列接触癖)とは、食事や会話以外の時間に、上下の歯を無意識に接触させ続けてしまう癖のことです。本来、安静にしているとき上下の歯は接触しておらず、唇を閉じていても歯と歯の間には数ミリの隙間があるのが正常です。歯が接触している時間が長くなると、咀嚼筋は休む間もなく働き続け、あごの関節にも持続的な負担がかかります。強く食いしばっていなくても、軽く触れているだけで負担になる点がTCHの特徴です。
セルフチェックとして、今この瞬間、上下の歯が触れていないか意識を向けてみてください。パソコン作業中・スマートフォンを見ているとき・料理中・運転中に歯が触れていることに気づいたら、TCHがある可能性があります。対策はシンプルで、「歯を離す、力を抜く」と書いた付せんを目につく場所に貼るなどして、気づくたびに歯を離し、頬の力を抜いて深呼吸することを繰り返します。こうした「気づいて離す」訓練は、後述する初期治療のセルフケアの中心でもあります。
顎関節症でも矯正できる?判断の考え方と治療の順序
結論からいうと、顎関節症があっても矯正治療を受けられる場合は多くあります。ただし、痛みや開口障害などの症状が強い時期に矯正を始めるのは一般的に避け、まず症状を落ち着かせてから矯正を検討する、という順序が基本です。あごの状態が不安定なまま歯を動かすと、症状の変化と歯の移動の影響を区別しにくくなり、治療の判断が難しくなるためです。
そのため、矯正を始める前には顎関節のスクリーニング(簡易検査)を行います。具体的には、問診(音・痛み・開けにくさの有無や経過、歯ぎしり・TCHなどの生活習慣)、開口量の測定、あごを動かしたときの音や痛みの確認、関節や筋肉の触診、必要に応じたレントゲンなどの画像検査です。この結果、症状が落ち着いていれば矯正の計画に進み、症状が活発な場合はまず次章で紹介する保存的治療を優先します。
症状が安定したあとの矯正では、治療中もあごの状態を確認しながら進めることが大切です。装置の種類(ワイヤー矯正・マウスピース矯正)それぞれの特徴や違いについては、マウスピース矯正とワイヤー矯正の違いを解説した記事で詳しく紹介しています。どの装置が適しているかは、歯並びだけでなくあごの状態も含めて診察のうえで判断します。
なお、歯列矯正は原則として健康保険が適用されない自費診療です。費用・治療期間・通院回数は歯並びやあごの状態、装置の種類によって異なり、治療中には痛みや違和感、装置のトラブル、虫歯・歯肉炎などのリスクがあり、経過や仕上がりには個人差があります。具体的な費用や期間は診察のうえでご提示します。治療期間の一般的な目安は歯列矯正の期間について解説した記事をご覧ください。
矯正すれば顎関節症は治る?「断定できない」理由
「矯正で顎関節症は治りますか?」というご質問への正確な答えは、「改善が期待できる場合はあるが、治ると断定はできない」です。理由は、前述のとおり顎関節症が多因子性の病気だからです。かみ合わせが要因の一部になっている方では、矯正で歯並びとかみ合わせが整い、噛む機能が安定することで、あごへの負担軽減が期待できる場合があります。一方、TCHやストレス、歯ぎしりが主な要因の方では、歯並びを整えても癖そのものが残れば症状が続くことがあります。
この点は誤解が多く、「矯正すれば顎関節症が治る」と期待して治療を始めると、期待と結果のずれに悩むことになりかねません。矯正治療はあくまで「歯並びとかみ合わせを整える治療」であり、「顎関節症を治すための治療」として位置づけられるものではない、と理解しておくことが大切です。効果の現れ方には個人差があります。
また、矯正中に一時的にあごの違和感や音・痛みが出ることはあり得ます。歯が動く過程でかみ合わせは日々変化するため、あごの筋肉や関節が新しいかみ合わせに慣れるまでの間、症状が出たり消えたりすることがあるのです。矯正治療が顎関節症の直接の原因になるとは限りませんが、症状が出た場合には力のかけ方や治療の進め方を調整する必要があるため、遠慮なく担当医に伝えてください。悪化のサイン(口がどんどん開けにくくなる、痛みで食事ができない等)を放置しないことが重要です。
まずは保存的治療から|ガイドラインが推奨する初期治療
顎関節症の治療は、「まず身体を傷つけない保存的治療(元に戻せる治療)から始める」のが原則です。一般社団法人日本顎関節学会がまとめ、Mindsガイドラインライブラリにも掲載されている「顎関節症初期治療診療ガイドライン2023 改訂版」でも、セルフケアや運動療法、口腔内装置などの初期治療が中心に位置づけられています。いきなり歯を削る・矯正するといった元に戻せない治療から始めない、という順序の考え方は、患者さんにとっても重要な知識です。
初期治療の主な内容を表にまとめます。実際にどれを行うかは、症状のタイプ(筋肉の痛みか、関節の問題か)によって歯科医師が判断します。
| 初期治療 | 内容 |
|---|---|
| セルフケア(生活指導) | 硬い食品や大きな開口を避けてあごを安静にする、頬づえ・うつぶせ寝をやめる、TCHに気づいたら歯を離す、蒸しタオルで温める、ストレスや睡眠の見直しなど。 |
| 運動療法(自己開口訓練など) | あごの筋肉のストレッチや開口練習を毎日少しずつ行い、筋肉の緊張をやわらげ、開口量の回復を図る。やり方は歯科医師の指導のもとで。 |
| スタビリゼーション型口腔内装置(スプリント) | 上あご(または下あご)の歯列全体を覆うマウスピース型の装置。主に就寝時に装着し、歯ぎしり・食いしばりによる筋肉や関節への負担の軽減を図る。 |
| 薬物療法 | 痛みが強い時期に、消炎鎮痛薬などを短期間用いることがある。 |
スタビリゼーション型口腔内装置(スプリント)とは、歯列全体を薄く覆うプラスチック製のマウスピースで、噛む力を分散させ、筋肉や関節の負担をやわらげることを目的とした装置です。矯正用のマウスピース(歯を動かす装置)とは目的がまったく異なる点に注意してください。保存的治療で多くの方は症状の軽減が期待できますが、経過には個人差があり、改善が乏しい場合は専門的な医療機関での精査が検討されます。
受診してから矯正を検討するまでの一般的な流れは、次のようになります。
- 歯科・歯科口腔外科を受診し、問診・触診・開口量測定・必要に応じた画像検査で診断を受ける。
- セルフケア・運動療法・スプリントなどの保存的治療を行い、症状の変化を確認する。
- 痛みや開口障害が落ち着き、症状が安定したことを確認する。
- 歯並び・かみ合わせの改善を希望する場合に、あごの状態をふまえた矯正の検査・診断に進む。
矯正中にあごが痛くなったら?対応と保険適用の考え方
矯正中にあごの痛みや音、開けにくさが出たときは、自己判断で装置を外したり通院を中断したりせず、まず担当の歯科医師に連絡してください。症状の内容と時期を確認したうえで、力のかけ方の調整、治療ペースの見直し、一時的な休止、セルフケアの指導など、状態に応じた対応を検討します。多くの場合、あごを安静にし、硬い食品を避け、TCHに気をつけるだけでも負担は減らせます。痛みが強い・口が急に開かなくなったなど、気になる症状がある場合は早めに歯科医師にご相談ください。
顎関節症・矯正と保険適用の考え方
費用面の整理もしておきましょう。顎関節症そのものの検査や、スプリントなどの保存的治療は、健康保険の範囲で行われる場合が多くあります。一方、歯列矯正は顎関節症がある方でも原則として自費診療です。例外として、あごの骨の大きさやずれに問題がある顎変形症などで外科手術を併用する矯正治療を行う場合には、指定医療機関での診断・治療により健康保険が適用となる場合があります。ご自身が該当するかどうかは検査をしなければ判断できないため、診察の際にお尋ねください。費用の詳細は症例により異なり、診察のうえでご説明します。
よくある質問(FAQ)
Q. 顎関節症でも矯正できますか?
A. 多くの場合、症状が落ち着いていれば矯正治療は可能です。ただし、痛みや開口障害が強い時期に始めることは一般的に避け、まずセルフケアやスプリントなどの保存的治療で症状を安定させてから矯正を検討します。矯正前には問診や開口量の測定などのスクリーニングを行い、あごの状態を確認したうえで治療計画を立てます。
Q. 矯正すれば顎関節症は治りますか?
A. 治ると断定することはできません。顎関節症はかみ合わせだけでなく、TCHや歯ぎしり、ストレスなど多くの要因が重なって起こるためです。かみ合わせが要因の一部になっている方では、矯正によりあごへの負担軽減が期待できる場合もありますが、効果には個人差があり、矯正は顎関節症の治療として行うものではないと理解しておくことが大切です。
Q. 矯正中に顎が痛くなったらどうすればいいですか?
A. 自己判断で装置を外したり通院をやめたりせず、早めに担当の歯科医師に連絡してください。症状に応じて、力の調整や治療ペースの見直し、セルフケアの指導などを行います。あわせて、硬い食品を避けてあごを安静にし、日中に上下の歯を接触させない(TCHに気をつける)ことも症状の軽減に役立ちます。
Q. あごのカクカク音だけなら治療は必要ないですか?
A. 痛みや開けにくさがなく音だけであれば、特に治療は必要ないとされています。ただし、音に加えて痛みが出てきた、口が開けにくくなってきた、食事がしづらいなどの変化があれば受診の目安です。音だけの段階でも、矯正を検討している方は事前にあごの状態を歯科医師に伝えておくと安心です。
Q. 顎関節症の矯正は保険がききますか?
A. 歯列矯正は、顎関節症がある方でも原則として健康保険が適用されない自費診療です。一方、顎関節症そのものの検査やスプリントなどの保存的治療は保険の範囲で行われる場合が多くあります。また、顎変形症などで外科手術を併用する矯正が必要な場合は、指定医療機関での診断により保険適用となる場合があります。該当するかどうかは診察・検査のうえで判断されます。
Q. 矯正で顎関節症が悪化することはありますか?
A. 矯正中は歯の移動に伴ってかみ合わせが変化するため、一時的にあごの違和感や音・痛みが出ることはあり得ます。矯正が直接の原因とは限りませんが、症状が出た場合は放置せず担当医に伝えてください。力のかけ方や進め方を調整しながら、あごの状態を確認しつつ治療を進めることが大切です。
Q. あごの痛みは何科(どこ)に相談すればいいですか?
A. まずはかかりつけの歯科、または歯科口腔外科にご相談ください。問診や触診、開口量の測定、必要に応じた画像検査で状態を確認し、症状が複雑な場合は顎関節症を専門的に扱う医療機関や大学病院を紹介してもらえます。矯正を検討している方は、矯正の相談時にあごの症状も一緒に伝えるとスムーズです。
Q. マウスピース(スプリント)とはどんな装置ですか?
A. スプリント(スタビリゼーション型口腔内装置)とは、歯列全体を薄く覆うマウスピース型の装置で、主に就寝時に装着し、歯ぎしり・食いしばりによるあごの筋肉や関節への負担の軽減を図るものです。歯を動かす矯正用マウスピースとは目的が異なります。市販品もありますが、合わない装置はかえって負担になることがあるため、歯科医師の診断のもとで作製することをおすすめします。
あごの音・痛みと矯正が気になる方は調布の当院へご相談ください
次のような場合は、一度ご相談いただくことをおすすめします。あごの痛みや開けにくさが1〜2週間以上続いている、食事や会話に支障が出ている、あごの音に加えて痛みが出てきた、顎関節症の既往があり矯正を始めてよいか迷っている、矯正中にあごの症状が出てきた、といったケースです。音だけで痛みがない場合も、矯正をご検討中であれば事前にお知らせいただければ、あごの状態を確認しながら計画を立てられます。
初回のご相談から治療開始までの一般的な流れは、(1)カウンセリングであごの症状と歯並びのお悩みをうかがう、(2)検査(開口量や関節の状態の確認、レントゲンなど)を行う、(3)検査結果をもとに、症状への対応と矯正の可否・治療計画・期間・費用の見通しをご説明する、(4)必要に応じて保存的治療で症状を安定させてから、ご納得のうえで矯正を開始する、という順序です。
あごの症状と歯並び、どちらのお悩みも、まずはお気軽にご相談ください。診察のうえ、お口とあごの状態に合わせてご説明します。矯正治療の費用の目安は料金表のページを、診療全体のご案内は当院トップページをご覧ください。
参考文献・出典
監修:医療法人社団デルタ 歯科医師|ドクター紹介はこちら
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、診断や治療方針は診察のうえ個々の状態により異なります。詳しくは歯科医師にご相談ください。
